タイ 11 Million Miles Away

タイ

前回までのあらすじ

まこつおじさんがカオサンからバスでスワンナプーム国際空港へ向かいました。
髪の毛が全部抜けてしまうほど後ろ髪引かれている彼を見送って、平和な旅行への期待が膨らみます。

カオサンの路地はスリリング

まこつおじさんが帰った。これでアホなタイ旅行も一段落するでしょう。ここからは通常運転で真面目なブログに戻るんじゃないでしょうか。
路地裏

まだまだカオサンは活気づいています。眠らない街です。そしてまだまだ知らないことがいっぱいあります。
僕たちはカオサンの隅から隅まで歩いてみることにしました。
ここカオサンは一大観光地なので、治安はそれほど悪いとは感じません。
スリやボッタクリ、詐欺は日常茶飯事とはいえ、その程度なら笑い話で済みます。ク◯リも手に入るそうですが、それだって自分で関わらなければいいだけの話。
凶悪な犯罪に巻き込まれる危険は他の地域に比べれば低い気がします。どこの路地に入っても誰か旅行者がいるし、ちゃんとお店が営業してます。

過信は禁物ですが、少しだけ大胆に行動してみることにしました。

ひっそり営業するバーを見つけてメニューを眺めたり、着いたときは気付かなかったホテルを見つけて値段を確認して部屋見せてもらったり、お土産屋の店員さんと値段交渉したり。
小さなエリアなのに新しい発見ばかりで楽しさが止まりません。

 

忍び寄る不安

しかし、そんな楽しい時間に忍び寄る一抹の不安。
あれ、ちょっとお腹がチクっとした気がする…

と「ねえ、あっち行ってみない?」

だ「うん、いいけど、ちょっと待って」

と「どうしたの?」

だ「なんか、ちょっとお腹痛いかも」

と「ガマン出来ない?」

だ「うーん、いや、大丈夫、気のせいだったかも」

これが全ての間違いでした。
じゃあ行こうと、さらにホテルから離れて行きます。

と「あ、フレッシュジュースがある、飲んでいい?」

だ「あの、ごめんやっぱ腹痛い。ホテル戻らない?」

と「えー、じゃあジュースだけ買っていいでしょ、飲みながら帰ろう」

店員さんがジュースを作ってる間、僕のお腹具合は急速に悪化していきます。事態は風雲急を告げています。何が原因だ、何が悪かった?あれか?トムヤムクンか?たしかに調子にのって食べ過ぎたかもしれない、いつもなら絶対一口だけなのに茶碗2杯飲んだからな…
こういう時に限ってジュースの店員さんが丁寧だったりします。
いつもミキサーの掃除とかしてないのに、この店員さんはお客さん毎に丁寧にミキサーを洗って清潔を心がけています。そういうのいらない、いらないから。いつもみたいに適当にミキサーしてさっさと作ってくれ。もう、もう限界かもしれない。

だ「ちょ、もう、やばい」

と「え、マジで?よし、ダッシュで帰るよ」

だ「どっかで、トイレを…」

と「裏道通ればホテルまで3分だからガマン出来ない?」

だ「3分なら」

お約束のように道に迷い、屋台しかないのでトイレを借りることも出来ず、永遠とも思える時間を絶え抜いてようやくホテルを視界にとらえます。
これで、これで助かった。
視界が涙で滲みエレベーターのボタンが押せません。待つのももどかしく、3階まで駆け上がります。鍵が、上手く回らない。
しっかりしろ!いつがんばるんだ?いまでしょ!
地獄のカウントダウンは一桁台に突入しています。

ガチャ
開いた!
ついに天国への扉は開かれた。
遠くからファンファーレが聞こえる。

ムダな妄想をしている場合じゃない。
間一髪、後はトイレに駆け込み、便座に腰を下ろせば終わり。頑張った、よく頑張った。人間の、守らなければならない尊厳を、ギリギリのところで守り抜いた。トイレに駆け込み、便座の目の前に立ちます。後は、ズボンのヒモをほどいて…

ヒモ?!

最悪なことに僕は今日タイパンツをはいていました。このタイパンツ、ベルトではなくヒモを結んでずり落ちないようにする仕組みになっております。
そして僕は盗難防止の為、ズボンのヒモとウォレットチェーンを絡ませて絶対ほどけないよう固く結んでおります。すべては財布を守る為。
本気で思った。財布なんか盗られてもいい、ヒモなんか結ぶんじゃなかった。念には念を入れてカタ結びなんてするんじゃなかった。自分の用心深さを心の底から呪うしかなかった。自分、カタ結びなんかするんじゃねぇ、と。

エレベーターで遅れてきた彼女が部屋に到着します。

と「ちょっと、間に合ったの?」

だ「ヒモが、ヒモがー」

神様お願いです、明日からヒモは結びません。財布だって盗られても文句言いません。ズボンがずり落ちても構いません。だから、だから今だけヒモを解いてください…

と「は?ヒモが何?」

だ「もう、あぁぁ」

と「何、ちょっと….」

だ「来るな、来ないでくれ、俺は、俺はもう….」

と「何なの?ヒモがって、意味が分からない」

だ「うぅ、あぁぁ」

と「ちょ….」

「きゃああああああああああーーー」

….

………

………….

 

その夜、笑い疲れてスヤスヤと眠る彼女の隣で、僕は人知れず枕を濡らしました。

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